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In fondo al bosco クワイエット・ボーイ/森の闇の中で

イタリア映画 (2015)

ユネスコ無形文化遺産に登録された「来訪神:仮面・仮装の神々」では、「なまはげ」などの来訪神の祭りだが、ドイツ、オーストリア、イタリアなどのアルプス地域全体で行われているクランプス〔Krampus〕の祭りは、それを遥かに大規模化したものだ。この件に関しては、いつも敬遠しているウィキペディアにもまともなことが書いてある。曰く。「若者はクランプスの扮装をして、錆びた鎖と鐘を持ち、子供と女性を怯えさせながら通りを練り歩く」。そのクランプスの扮装で被る面は、半分は山羊、半分は悪魔とされている。だから、映画に出てくるクランプスも、顔は悪魔だが、山羊の角が生えている。映画は、この祭りの最中に、飲んだくれの父親の4歳になる幼児トミーが、行方不明になるところから始まる。すべての責任は父に課せられ、彼は村八分状態になる。そして5年後、遠く離れたナポリの街で、1人の身元不明の少年が保護される。何となく似ているところからDNA検査をしたところ一致したので、イタリア北端部のアルプスの村まで連れてこられる。しかし、少年は何も覚えていない。父母は最初喜ぶが、そのうち、母の心には「自分の息子ではない」という疑いが目覚める。初めから疑惑の目で見ていた節がある母の父親は、見つかった少年のことを次第に悪魔の化身と思うようになる。事の真相は、村で唯一のパブを経営する3人の若者の奇妙な行動の中から次第に明らかになっていく。しかも、その真相には、失踪したトミーの母親と祖父も絡み、さらに、地元の警察署長の思惑も絡んで、非常に複雑なものとなっていく。果たして、ナポリから連れて来られた「トミー」は、本物なのか偽者なのか? 感想としては、話が込み入り過ぎている。もう少し単純な筋書きにして、人間関係をじっく描いていれば、観終わった後の「不自然なものを観させられたモヤモヤ感」は なかったのではいか?

12月5日にアルプス全域で毎年行われるクランプスの祭り。ドロミテ・アルプスの中央部にあるクロチェ・ディ・ファッサの村でも、夜になって悪魔の扮装をした村人が子供たちを脅していた。その祭りを見に来ていた4歳になるトミーは、悪魔が怖くなり、酔っ払った父が構ってくれないので、1人で村から離れた家に向かう。しかし、森の中をショートカットするうちに道に迷い、遠くに小屋が見える。このシーンを最後に、幼いトミーの姿は忽然と消えた。必死の捜索にも関わらず生きているトミーどころか、死体すら見つからない。疑いは、酔っ払っていた父、トミーへの暴行が疑われた父に向けられ、逮捕されるが、のち釈放。しかし、村人は父を殺人者だと断定し、村八分にする。そして5年後、イタリア南部のナポリで1人の少年が保護される。地元で該当者がないので、行方不明の少年リストをあたったところ、トミーの可能性が浮上する。地元の警察署長が呼ばれる。次のシーンでは、少年が署長によって村に連れて来られる。「息子発見」をいきなり聞かされた母は喜ぶが、少年が何も覚えていないことから、祖父はトミーだと判断した理由を尋ねる。返事はDNAの一致。夜になり、樵に出ていた父も帰宅し、楽しい夜になるはずだったが、トミーを覚えているはずの犬が吠えやまない。村で唯一のパブを経営する3人の青年のうち、一番若いディミトリは、トミー発見のニュースを聞き、急に様子がおかしくなる。彼の兄とその妻が密談する様子から、今回のトミー発見には何らかの「謎」があることが示唆される。一方。トミーの家では、最初の夜から、母が、「あの子、トミーの臭いじゃない。目も違う」と言い出す。一方、ナポリで路上生活を送って来た少年の 凶暴な側面が3つのシーンで紹介される。祖父は少年を悪魔の化身だと思い始め、母も息子だとは考えなくなる。父だけが、「トミーの生還は自分の無実の証明」でもあるので、ひたすら少年を守り、少年も父には懐く。ディミトリは事態の進行にいたたまれなくなり、署長に告白しようとしていきなり警察に現れるが、門前払いされる。しかし、それを見ていた父がパブに行って詰問するとディミトリは、「トミーを過失致死させたことと、山の中に埋めたこと」を白状する。父が教えられた場所に行くと確かに遺体はあった。では、「少年」はいったい誰なのか? DNA検査に疑いを抱いた父は、署長に暴行を加えて真相を白状させる。それは、密通していた母を安心させようとして行ったトリックだった。映画の最後には、少年を悪魔と断定した祖父が、彼を井戸に投げ込むが、その行為を通し、なぜ祖父がそれほどまでに過激な行動をとるのか、その裏にある「暗い過去」が明らかにされる。映画は、5年前と現在が錯綜しているので、5年前のシーンには、写真の左側に山吹色の帯を付ける(10年後の映像はの帯)。

ナポリで発見された9歳のトミーを演じるテオ・アキーレ・カプリオ(Teo Achille Caprio)は2006年生まれなので、映画出演時は8~9歳であろう。これが映画への初出演になる。母国語のイタリア語の他、英語とルーマニア語が話せると書いてあった。イタリア人らしくない風貌(特に、瞳の色)は、両親のどちらかがルーマニア人なのかもしれない。台詞はほとんどないが、眼力(めぢから)に存在感がある。

映画の舞台が私の大好きなドロミテなので、脱線して、個人的な話をしたいと思います。私が若かった頃、初めてドロミテに行った時、ザルツブルクでレンタカーを借りました。そして、この映画の舞台の近くまで行った時、車を路肩に停めたら、土砂が柔らかくなっていて、タイヤがはまってしまいました。通りがかったドイツの青年2人に頼んでワイヤーで引っ張り出そうとしたのですが、かけどころが悪くてブレーキ・パイプが破損、動かなくなりました。青年たちは修理工を捜しに行ってくれたのですが、日曜の5時過ぎでどこも閉まっていて40分後に戻ってきました。そして、荷物を持ってホテルまで運んでくれました。セルヴァという村です。翌日レンタカー会社に電話したら、僻地なので、インスブルックから代車を寄こすので、夕方まで待ってくれという話。幸いそこはピズ・ボエという3152mの山の周りを4つの峠(2240m、2242m、2137m、1878m)を経由して一周できる場所なので、その日は、ドロミテを満喫できました。レンタカー会社の青年が来たのは夕方。同年輩なので、ワインを飲みながら5時から7時半まで話し、場所を変えて食事をしながら8時半まで話し、最後は、下の大きな町まで行って11時半まで話し、ホテルまで送ってもらいました。下の写真(私の撮影)は、翌日朝に訪れたロゼーゼン・ガルテン〔ドロミテ地方は、オーストリア領だったこともあり、イタリア語とドイツ語が併用して使われている〕です。夕陽が当たるとバラのように赤く輝くというところから名付けられた山群で、映画のクロチェ・ディ・ファッサのすぐ裏手にあたります。この時は1回目のドロミテだったので、登山道具は持っていませんでした。私は、このドロマイト(マグネシウム質石灰岩)でできた独特の山容が大好きです。


あらすじ

映画の最初に解説文が入る。「12月5日になると、アルプスの谷ではクランプスの祭りが行われる。村人は、悪魔に扮して夜中練り歩く。伝説によれば、本物の悪魔が紛れ込んでいて、悪い子供を連れ去ると言われている。実際、これまでにも何人かの子供たちが姿を消し、誰一人として戻って来なかった」。そして、発煙筒で赤く染まった通りを悪魔が歩いて行くシーンに変わる(1枚目の写真)。1人の「悪魔」が観衆の中に隠れていた子どもを見つける(2枚目の写真)。「悪魔」にじっと見られた4歳のトミーは(3枚目の写真)、怖くなって逃げ出す。
  

トミーが逃げていく村の通りには、「悪魔」がうごめいている(1枚目の写真)。トミーは父親を見つけ、「パパ!」と腕を引っ張り(2枚目の写真)、「こわいよ、帰ろうよ」と頼むが、村の行事の最中でもあり(悪魔の衣装を着て、悪魔のお面だけは外している)、蒸留酒を1ビン開けるほど酔っ払っていることもあり、邪険に追い払う。トミーは村を逃げ出し、山里にある家に向かうが、森の中を歩くうちに先ほどの悪魔のことが思い出されて道に迷ってしまう。そして、幸いに森を抜けると、野原の向こうには1軒の小屋がぽつんと建っていた(3枚目の写真)〔伏線〕
  

真っ暗な山道をパトカーが走って行く(1枚目の写真)。パトカーから降りたのは地元の村の警察署長。他人の侵入を嗅ぎつけた犬が吠え続ける〔伏線〕。トミーの両親の家には、心配で青ざめた女性(トミーの母)と、深刻な顔をした老人(トミーの祖父)がいる。そこに、先ほどトミーが「パパ」と呼びかけた男性が入って来る。祖父:「見つかったか?」。父は首を振る。そして、母も父も うな垂れる。ここで、題名が表示される。そして、トミーの行方不明を伝えるTVのニュース映像が短いカットで流れる。「4歳の少年トマソ・コンチ君が、12月5日のクランプス祭りの最中に、クロチェ・ディ・ファッサの村で姿を消しました」(2枚目の写真)。「夜明けから捜索が始まりましたが、痕跡は発見できませんでした」。ここで、警察署での会見のシーンが一瞬入る(3枚目の写真、中央のデスクに座っているのは、右から、署長、母、父)。署長が、「トミー君は、黒っぽいジャケットを着て、黄色のブーツを履いていました」と説明。その後も、いろいろな放送が断片的に挿入される。専門家:「この谷で消えた子供は彼が最初ではありません」。数日後のアナウンサー:「トミー君の事件で新展開です。少年の父親が逮捕されました」。「マニュエル・コンチは拘留されました。罪状は殺人と死体遺棄です」。その後も、マスコミの村人への取材や、3ヶ月前のトミーの腕の骨折を、父親による暴行かもしれないとする局も出てくる。あるいは、父親の酒癖の悪さも指摘される。「予審判事は父親を釈放しました」。そして、かなり後の放送。「少年の母親リンダ・コンチは自殺を図り 入院しました。多くの住民が父親は有罪だと考えています。しかし、死体は現在まで発見されず、事件は謎に包まれたままです」。
  

「5年後」と表示され、ナポリの空撮映像が映る〔高層ビルの形態からナポリと判明〕。カメラは港湾地区の再開発地区に切り替わる。3度目のカットでどこかのビルの地下の工事現場に。トラックのところにいた2人の作業員が、「あれ何だ?」と言い、懐中電灯を持ってコンクリートの狭い通路に入って行く(1枚目の写真)。そして、真っ暗な突き当たりに見たものは、そこで借り住まいしていた1人の浮浪児だった(2・3枚目の写真)。
  

ナポリの警察署に現れたのはクロチェ・ディ・ファッサ村の警察署長。少年はナポリの住民ではなかった。地元警察は、移動遊園地に行き、ジプシーにあたろうとしたが引き払った後だった。そこで、行方不明少年のリストを探したら、似ていたので署長を呼んだのだ〔しかし、この成り行きはかなり無理がある。失踪時4歳だと5年後は9歳。この年頃では、顔立ちは急速に変わる。実際、2つ前の節の3枚目のトミーの顔と、この節の2枚目の少年の顔を見比べて「似ている」とは言い難い。確かに、イタリアでブロンド系の茶髪で、碧眼は少数派なので、行方不明児で9歳前後の該当者はほとんどいなかったのかもしれない。だが、ナポリとクロチェ・ディ・ファッサ村の距離は、高速道路経由で約870キロ。このイメージは、大阪で見つかった子供が、宮城県の登米市(ユネスコ無形文化遺産に登録された「米川の水かぶり」が行われる場所)で行方不明になった子供だと認定するようなものだ=距離は高速経由で約970キロと少し遠いが〕。別室では、女性の係官が、いろいろと質問するが、少年は名前を訊かれても、写真を見せられて「分かる人、ある?」「見覚えのあるもの、何かない?」と訊かれても、何も答えない(1枚目の写真)。「どう思う? 彼かね?」。そして、画面はいきなり雪を被ったドロミテ・アルプスに変わる。少年は署長の車に乗せられ、ボルツァーノからの山道を村に向かっている(2枚目の写真)。両親には、まだ何も知らされていない。父は樵作業、母は道でランニング。その母に、警察の車が寄ってきて何事かを伝える(遠景)。父の方は、車に残した携帯が鳴るが、作業中なので気付かない。村の警察署で、パブを経営する3人の若者(兄弟と兄の妻)の1人エルセが、何事かと見ていると、1人の少年のまわりに署員が集っている(3枚目の写真、署長は右端の黒髭、すぐ横の女性は心理学者)。
  

そこに、母と祖父が到着する。母は、出てきた署長に、「会わせてくれる?」と訊く〔母と署長は恋人同士〕。「まだだ。こちらはトッツィ博士」。児童心理学者の意見は、「トミーはとても混乱しています。安心させてやって下さい。もし、彼があなたを覚えてなくても、プレッシャーをかけないように」と注意する。署長は、「我々にも、彼がどうやって生きてきたのか分からない」と打ち明ける。祖父が、「うちの子だと、どうして分かる?」と当然の質問をする(1枚目の写真、左端が祖父、中央が母)〔実は、伏線〕。「DNA検査。検査は100%信頼できます。トミーを見つけたんですよ」〔伏線〕。その時、少年が現れる(2枚目の写真)。母は少年に抱きつくが、少年は接触を嫌って突き放す。それでも母は嬉しそうだ。そのまま、自宅に少年を連れて帰る。夜になり、父は何も知らずに家に入って来る。そして、嬉しそうな妻の前に座っている少年に気付く(3枚目の写真)。トミーが戻ってきた? 父は驚いて少年の前にひざまずく。2人の顔が合う。父が少年の頬を優しく触っても少年はじっとしている。しかし、先ほどの母のように、ぎゅっと抱きしめると拒絶反応を示す。それでも、2人とも嬉しそうだ。母は、「(暖炉に)火を点けないの?」と夫に催促する。父が、「やりたいか?」と、少年にマッチを差し出すと、如何にも慣れた手つきで薪に火を点ける。そして、すぐにマッチの火を吹き消す。「まるでプロだな」。
  

その夜の夕食。祖父も同席している。少年は手づかみで食べているが(1枚目の写真)、その姿を見る祖父の顔には、あって当然の優しさが全くない。父が、少年に、「おいしいか? お前の大好物だった。覚えてるか?」と声をかける(2枚目の写真)。無言。母は、「プレッシャーをかけるなって言われたわ」とサポートする。祖父は、「何て名だ?」と訊く。父は、「トミーだ」と言うが、祖父は、「違う名前で通ってたかもな」と質問の趣旨を説明する。その時、映画の中では初めて、少年が口をきく。「トミーでいいや」。その声と同時に、テーブルの横につながれていた犬が吠え始める。少年は犬をじっと見ていると(3枚目の写真、矢印は犬)、立ち上がって犬の前に立つ。犬はますます吠える〔伏線〕。父は、「バカ犬を外に出そう」と言い、祖父が外に連れて行く。夕食が終わり、父は少年を自分の寝室に連れて行く〔5年前から家庭内別居〕。そして、置いてあった自分の持ち物をまとめる。そこは、昔、トミーの部屋だった。戸棚の中には、1年ごとに買った子供靴が置いてある〔いつトミーが戻って来ても履けるように、順にサイズが大きくなっている〕。父が、「今夜は俺のパジャマを着せよう」と母に言い、少年には「明日、お前と一緒に買いに行こう」と話しかけるが、返事はない。母は、少年の服を脱がせようとすると、手を触れさせない。母は、傷つき、そのまま寝室に去る。父は、「心配するな」と慰める。寝る場所がなくなった父は、母の寝室に入って行く。様子が変なので、「どうした?」と訊くと、「傷付いたの」という返事。「あの子も、わざとしたんじゃない」。「どこで寝るの?」。「さあ、ソファーかな」。「よければ、ここで寝ていいわ」。ベッドに入った後、父は、疑問をぶつける。「静かな子だな。小さな頃は、お喋りだったのに。誰に何かされたのかな? なぜ、何も思い出せないんだろう?」。この素朴な問いかけに対し、母は、怒ったような顔で「知らない」と言って電気を消す。この時点で、もう父と母の間で、少年に対する考え方で差が出始めている。
  

パブで祖父と神父が話している。神父:「あの子は、どこにいたか、何があったか、話しましたか?」。祖父は、不機嫌に、「何も覚えてない」と言っただけ。この人物は、他人に対する敬意に欠ける。一方、カウンターでは、弟のディミトリが包丁でうっかり指先を切ってしまう(1枚目の写真、矢印)〔伏線〕。兄のフラヴィオは、「何してる? 目を覚ませ」と頬を叩き、手当てする。フラヴィオと妻のエルセは、厨房に行くと、2人で話し始める。「おかしくなりそうだ」。「何も覚えてないって」。「彼はトミーじゃない!」。「大きな声出さないで!」(2枚目の写真)。さらに、「あんたの弟、監視してないとね。一言も漏らしちゃダメよ」。少年がトミーでないことを知っている人物が、ここに3人いる。なぜだろう?
 

その夜、父が悪夢で目覚めると、隣に寝ているはずの妻がいない。心配になって捜しに行こうとすると、彼女は少年が寝ているのをドアの外から見ていた。そして、難しい顔から出た言葉は、「あの子、トミーの臭いじゃない。目も違う」(1枚目の写真)。「何だと?」。「テックス〔犬〕も、識別しなかった」。「警察は 間違いないと言ったんだろ? なら、やめろ」。この母は、少年が来た最初の夜からもう不信感を抱いている。その頃、祖父は自分の小屋〔娘夫婦の家に隣接している〕で、昔の新聞の切抜きを見ている。そこには、「小さなメアリが、ファッサ谷の森で行方不明に」「クロチェ・ディ・ファッサの呪い」「トミー、アガタ、シモーネ/1962年から3人の子供が行方不明に」「謎の谷/過去50年で3件の失踪」などの見出しが躍る。朝、父が少年を車に乗せようとする。犬は執拗に吠える。母は同乗しない。いつも通り走って行くと言って分かれる。5年ぶりに息子が戻って来たら、こんな態度は取らないハズだ。母はもう見切っている… 臭いと目と犬だけで。村に着いた父は、少年を連れてパブに入る(2枚目の写真)。ディミトリは顔面蒼白だが、フラヴィオは2人のテーブルににこやかに寄ってきて、「じゃあ、ホントだったんだ、トミー。戻ったんだな」と声をかける。それを見たエルセも、テーブルにひざまずいて目線をトミーに合わせ、「やあ、トミー」と微笑む。少年は難しい顔のまま(3枚目の写真)。父は、「エルセを覚えてるか?」と訊く。少年は首を振る。「私、あなたのベビーシッターだったのよ」。「まだ早すぎる。もうちょっと待ってやってくれ」。そして、コークとケーキを2つずつ注文する。カウンターに戻ったエルセは、ディミトリの様子がおかしいので奥に連れて行く。
  

村には、トミーが戻ったとの話を聞いてマスコミが集っている。村に行かずに途中で休んでいた母の周りにも取材陣が集ってきたが、署長がストップをかける。そして、母に「トミーに優しくしてやれ」と言うが、母の顔には署長への不信感が浮かぶ。一方、パブでも、父と少年の1つ後ろのテーブルに女性記者が座っている。そして、席を立って2人のテーブルまで来ると、自分の名前を父に言い、「覚えてる?」と訊く。「私は記者よ。5年前に会ったわ」。そして、テーブルにひざまずくと、下から目線で少年に、「トミー、元気?」と話しかける。少年は無言。記者は、父に、「あなたを非難した人たちに何か言いたいことは?」と尋ねる。父は、「この5年間、俺は無実を主張してきた」(1枚目の写真)と言い、さらに「でも、あんた、無視したじゃないか」と責める。その時、母がパブに入ってくる。同時に、記者は、トミーに「戻って来られて嬉しい?」と尋ねる。しかし、訊かれた少年の顔は憎しみに満ちている(2枚目の写真)。彼は、父のことが好きになっていた。その父の無罪を無視して書かなかった記者に対し、強い憤りを覚えたのだ。そして、いきなり記者の髪をつかむと、引き抜こうと全力で引っ張る。記者は痛くて悲鳴を上げる(3枚目の写真)。母は、その光景を恐ろしそうに見ている。記者は父によって引き離されたが20本余りの髪の毛が引きちぎられた。少年の父に対する「好意」と同時に、強い暴力性を示す初めての場面だ〔ナポリで1人で行き抜いてきたら、暴力的になっていて当然かも〕
  

奥から戻って来ていたディミトリが、これを見て、「出てけ!」と叫ぶ。「お前はトミーじゃない。誰なんだ?」(1枚目の写真)。父は、「黙れ!」と怒鳴る。エルセは、「彼、具合が悪いの」と弁解する。「なら、小屋に閉じ込めとけ!」。しかし、ディミトリはやめない。「彼はトミーじゃない。あんたの息子じゃない」。少年は睨む(2枚目の写真)。母は唖然とする〔自分の疑いが、他人によって立証された〕。ディミトリ:「彼は悪魔だ」。エルセ:「お黙り」。母は、この騒動の後、祖父の小屋に行き、相談するが、祖父は、「ディミトリは狂っとる。何を言おうと気にするな」と宥める。しかし、祖父の心にも、「悪魔」という言葉は鮮烈に入り込んだ〔なぜなら、それは祖父が抱いていた疑問に対する すごくシンプルな答えだったから〕
 

少年を演じるテオの顔がはっきりと映される場面。父が、昨日のパブでの罵倒の背景を、少年に説明している。「悪魔が村にやって来て、悪い子を連れ去ろうとするが、セント・ニコラス(サンタ)が追い払うんだ」。「どこへ?」。「地獄だ」。これは少年の2つ目の発言。彼は 父にのみ心を開いている。「毎年盛大な祭りがあって、村人は悪魔の衣装をまとう。ただの遊びなんだが、ディミトリだけは本当だと信じてる。あいつは少しキ印だから。奇声を上げたり、変なこと言ったりするが、気にするな」。「悪魔を信じてる?」。「いいや」。「どうして断言できるの?」。「そんなもの存在しないからだ。俺も悪魔の衣装を着ていたが、お遊びなんだ」。「ボクは?」。「お前も一緒だった」。「ボクも悪魔のかっこうだった?」。「いいや。お前は小さすぎたからな。怖がってたぞ」。そこに祖父が入って来る。2人が話していたのは、祖父の小屋だった。祖父は、「出てってくれ」「その子をここに連れてくるな」と小声で父に言う。だが、その冷たい言葉は少年の耳にも入っていた。そこで、小屋の外に出ると、少年は扉口に張り付いて会話を聞こうとする。父:「何を言ってる? いったい何なんだ?」。祖父:「あの子は、他所(よそ)で育った。孫のようには扱えん」(2枚目の写真)〔こんな勝手な言い分もないが、それを少年は聞いてしまった〕。父は、「俺の息子のことを決めるのは、俺だ」と祖父を見下すように言う〔祖父と言っても、妻の親爺にしか過ぎず、親近感が薄い上に バカなことを言い出したので軽蔑した〕。「あの子は愛情を必要としてる」。「なら、お前が与えろ」。その言葉にキレた少年は、自分に向かって吠えるのをやめない犬に向かって石を投げつける(3枚目の写真、矢印)。
  

その夜。母は、家の外のぶらんこに座っている。5年前の記憶が蘇る。相手は警察署長。2人は密かに想い合っている。その会話の中で、祭りの当夜は、いつも通り夫と妻はケンカをしていて、夫(とトミー)だけが祭りに出かけ、母は睡眠剤を飲んで寝てしまったと(署長に)話す。「10分で眠ってしまったわ」〔重要な伏線〕。また、この発言の直前、署長は、「私と一緒に暮らそう、トミーも一緒に」と真剣に申し出る〔この言葉も重要な伏線なのだが、引っかかるのは、この会話がトミーの失踪後に行われたこと。「トミーも一緒に」という言い方は、失踪前ならいいが、失踪後にこんな言い方をするだろうか?〕。映画は再び現在に戻り、夫が心配して近づいてくる。そして、フラヴィオが詫びていたと話した上で、「あの子には君が必要だ」と言う。「でも、その気になれないの。どうしたらいいか分からない」。「心配するな。切り抜けていこう〔Un giorno alla volta〕。フラヴィオのパブでパーティをやろう。村中の子供たちを招待するんだ。あの子にも友だちができる」。その後、場面は変わり、真っ暗な夜の森をフラヴィオとエルセが歩いている。そして、森を抜けると、そこに見えた「野原の向こうの小屋」は、映画の冒頭、トミーが最後に見たものとおなじだった〔2節目の3枚目の写真と対比〕。そして、場面は、小屋の中に切り替わる。中にいたのはディミトリ。そこに2人が入って来る。ディミトリは「それで?」と訊いた後で、返事がないので(2枚目の写真)、「あいつが戻ってきたんだ」とつぶやくようにくり返し、小便を滝にように漏らす。 

その夜。なぜか犬が吠え続ける。その音で少年は目を覚ます(1枚目の写真)。ベッドから降りると、素足のままキッチンに行き、包丁を1本抜き取る。次のシーンでは、外出用に暖かい服を着込んだ少年が、左手に包丁を持って立っている(2枚目の写真、矢印は、見えにくいが包丁)。少年が睨む先には吠えている犬がいる。そして、場面は翌朝に替わり、祖父が穴を掘っている。少年の声が遠くから聞こえる。「見たくない!」。「じっしてろ。ここにいるんだ。お前のやったことを見てろ」(3枚目の写真)。祖父は、シャベルの土を捨てる度に少年を睨む。そして、最後に、犬の死骸の入った麻袋を大事そうに穴に入れる。少年が示した2つ目の強い暴力性だ。  

場面は、警察署に移る。そこでは、父母と心理学者が話している。「まだ、何も思い出しませんか?」。父:「まだ何も」。母:「マニュエル〔夫〕、話した方がいいわ」。心理学者に促され、母が「あの子、昨夜 犬を殺したんです」と打ち明ける。少年はその話を、時折見せる「人目を盗む」ような表情で聞いている(1枚目の写真)〔長年の路上生活のせい?〕。父は、「ありがちなことですよ」。母:「どこが?」。心理学者:「何があったのですか?」。父:「おいぼれ犬が吠えやまなかったので… 正確な状況は分かりません。あの子一人でしたから」。心理学者は、少年と2人だけで話すことを求める。少年:「吠えるんだもん」。「どうしたかったの?」。「あいつ、ボクを嫌ってたんだ〔Ce l'aveva con me〕」(2枚目の写真)。会話は、この3つだけ。すぐに、屋外での父母の会話に切り替わる。父:「故意にやったんじゃない」。母:「包丁を使ったのよ」。「それが どうした? ひどい人生で、変わっちまったのさ。だからって、見放すって手はないだろう」(3枚目の写真)「とにかくパーティはやる。これから準備でパブに行くが、一緒に来るか?」。「父さんの車で家に戻る」。「トミーを連れてくか?」。「嫌よ。あんたが連れて来て」。その頃、祖父は教会で神父と話していた。祖父:「娘は母親なのに、息子だと認めんのだぞ」。神父:「警察は検査をしたんでしょう?」。「何をしようが、俺には関係ないね。おれはこの目で見たんだ。俺のトミーならテックスを殺すはずがない」。「どんな風に生きてきたのか、知らないのでしょう?」。「あんたは、知っとるのかね? 万能みたいに振舞っとるが、何も知らんじゃないか。それなのに、俺が悪魔の存在を信じとるからといってキ印扱いしおって!」。この時、母が、教会に入ってくる。だから、この後の会話は母の耳にも入る。怒った神父は、「あんたを信じろと? あの子は、悪魔で、あんたを怒らせようと地獄から戻ってきたと言うんだな? あんたは、そのバカ話を娘にも吹き込んだんだろう!」と、聖職者ならぬ口調で祖父を咎める。祖父は、「俺があいつをここに連れて来るから、じっくり見るがいい」と反論する〔伏線〕  

そして、その夜はパブでパーティ。父は、木の橇をプレゼントする。しかし、2人が座っているブースから少年が振り返ってパブの中を見ても、いるのは、署長と、母と、祖父の3人だけ。天井に吊り下げられた「Bentornato Tommi(トミー、お帰り)」の垂れ幕が寂しい(1枚目の写真)。その光景を見た少年は、父に、「誰を待ってるの?」と尋ねる。「遅刻した奴らだ」。時間は経つが誰も現れない。父は、イライラが募り、「百人招いたのに、なぜ誰も来ない?」と祖父に話しかける。「お前が嫌われ者だからだ」。少年はエルセとダーツを始め、楽しそう。それを見た父は、「あの子も楽しんでる」と言うが、祖父の「ここじゃ、一人として楽しんどらんわい」の言葉でキレる。突然立ち上がると、少年を肩に担ぎ、そのままパブを出る。そして、村の通りを歩きながら、「息子は生きてるぞ! 俺は人殺しじゃない! 俺が無実なのが、そんなにムカつくか! 俺は、クロチェ・ディ・ファッサの悪魔じゃない!」と大声で怒鳴る〔父の怒りは理解できるが、そもそも、警察が本物だと保証した「トミー」が戻ったのに、なぜ村人は一人も来なかったのか? ストーリー展開の妥当性に疑問が残る〕  

父が署長と揉めているのを見ると、祖父が少年を引っつかみ、「嫌だ、放せ!」というのを無視して教会に引きずって行く(1枚目の写真)。そして、教会の扉を開けると、中に放り込む。あまりの勢いに、少年は壁に激突する(2枚目の写真)。だから、その先、眩暈に襲われて吐いたにせよ、それは、「悪魔が教会に入った」ためではない。しかし、祖父は、その嘔吐を悪魔の証しだと考える。飛び込んできた父は、少年の惨状を見て抱きかかえ、祖父を睨みつけてから出て行く(3枚目の写真)。父は、少年を車にそっと乗せると、妻に向かって「行くぞ」と声をかけるが、祖父に幻惑された冷たい女は身動き一つしない。結局、この不倫な女は、愛人である署長の車に乗る。「本当にトミーなの?」。「ああ。もちろんだ。トミーさ。君は、脆い性格なんだ。マニュエルは助けにならん。なぜ、一緒に暮らしてる?」。「彼には私しかいない」。「君は自虐的すぎる」。「そんなことない」。このあとで始まるのは、穢らわしい警部と、穢らわしい母親による車内での性行為だ。
  

結局、母は朝になるまで帰って来なかった。父が何度 携帯にかけても、留守録になるだけだ。父は、怒りに任せて、この5年間断っていた酒(グラッパ)を飲もうとするが、何とか我慢する。母は、ようやく帰ってきたが、声一つかけずにキッチンに行くと、何かを食べ始める。父は向かい合った席に座ると、「なぜ、またあいつとヤッた?」と訊く。「余計なお世話よ」。「君は何もかも壊してきた」。「5年で、壊すものなどなくなった」。「俺と一緒にいるのは、憐(あわ)れむためか?」。「あんたは人殺しじゃないから」。「頭痛に嗚咽、精神安定剤を飲み続け、自殺まで図った。俺は 君のためにいるんだ、逆じゃない」。「誰も、あんたに頼んでない」。「俺たちは家族だ。だから やってるんだ」。「家族? そんなものどこにあるの? あの子を行方不明にして、何もかも壊したじゃないの」。「見つかったじゃないか!」。「あれはトミーじゃない!!」(1枚目の写真)。父は、パブに行って酒を買い、車に乗り込むと封を切る。しかし、森の中で発炎筒を焚いてトミーを捜しまわっていた時の記憶が蘇る。その時、森の中で出会った祖父から、「そのザマ〔泥酔状態〕は何だ? 何で、行方不明にした?」〔伏線〕と責められたのを思い出し、栓を閉め直す。夜になり、母は1人でベッドに入る〔夫は外出したまま〕。すると、ドアが開き、少年が入って来る。「出ておいき」。「なぜ、ボクを嫌うの?」(2枚目の写真)。少年が出ていかないので、母はベッドから飛び起きると、肩をつかんで強引につまみ出す(3枚目の写真)。閉めたドアの向こうでは、少年が、「大嫌いだ!」と叫びながらドアを叩く。
  

翌朝、母が、小麦のシリアルを鉢に入れる。一緒にいた祖父が、「どうした、どっか悪いのか?」と訊くと、「ぜんぜん眠れなかった」と不機嫌に答える。そして、食べ始めえると、いきなり 「うっ」と言い、口から血を吐き出す(1枚目の写真)。祖父が、娘の口の中を見てから、シリアルの袋の中身をテーブルに開ける。中にはガラスの破片が入っていた〔夜の間に、少年が仕返しのために入れた/3度目の強い暴力性〕。次のシーンは、警察署。部屋の中にいるのは、少年と父と心理学者の3人。心理学者:「リンダ〔母〕は?」。父:「買い物に行くとか」。少年:「来たくないのさ」。「そんなことないぞ」。「ボクが嫌いなんだ」。「いや、愛してる」。「ボクを傷つけた」(2枚目の写真)。「いつ?」。心理学者:「マニュエル、あなたはどこにいたの?」。「昨夜は遅く帰ったから。リンダはそんなことしない」。「やったよ。あの じいさんもだ」(3枚目の写真)。心理学者:「しばらく、2人だけにしてもらえます?」。そこで何が話し合われたか、映画は教えてくれない。
  

映画では、部屋から出て行った父に焦点が当てられる。父が自販機でコーヒーを買っていると、署の玄関からディミトリが勢いよく入って来る。そして、署員に「署長はどこ?」と訊く。「今、忙しい」。「どうしても会わないと」。「今、忙しいんだ。そこで待ってろよ」。しかし、ディミトリは「署長!」と叫んで、強引に中に入ろうとする。騒ぎを聞きつけた2人の警官と、たまたまそこにいたエルセの4人で ディミトリを止める(1枚目の写真、矢印はディミトリ)。シーンは署長の家に変わる。署長はリンダとキスし、「ここで暮らそう」と声をかける。「どこかに行きましょ。うんと遠くへ」。「どこへ?」。「どこへでも」。「転勤してもいいぞ」。「じゃあ、してよ」。2人は、そのままセックスに行きそうに見えたが、急にリンダがやめる。署長に真剣味がないから、という理由だ。「そんなことない」。「狂ってると思ってるんでしょ」。「狂ってなんかない」。「だけど、信じてくれないじゃない。もう少しで、ガラスのかけらを飲み込むとこだったのよ」。「ただの子供じゃないか」。リンダは、「私は狂ってない」と言うと、机の上にあったハサミで自分の手首を刺す(2枚目の写真)。一方、村のパブでは、フラヴィオがエルセに、「何とかしないと」と話していると、そこに父が入ってくる。「閉店したよ」。「トイレを借りる」。そう言うと、父はカウンターの中に飛び込んでいく。そして、2人が入って来られないように厨房のドアをロックする。中にはディミトリがいた。父は、「なぜ、警察に行った?」と訊く。ドアの外では、フラヴィオが、「何もしゃべるな、ディミトリ」と叫ぶ。これは逆効果で、ディミトリが父に知られては拙いことを知っていると、白状するようなものだ。父は、樵で年長。ひ弱なディミトルが敵う相手ではない。すぐに床に組み伏せられる。「何を署長に話そうとした?」。「刑務所に入りたい」。そして、遂に、「あれはトミーじゃない」と告白する(3枚目の写真)。「なぜだ?!」。
  

ここで、画面は5年前に戻る。「野原の向こうの小屋」が3度目に映り、ディミトリの「祭りの夜、俺たちは小屋にいた」という台詞が入る。その後は映像のみ。小屋の入口脇には、鬼の衣装のままのディミトリが座り(面は外している)、小屋の奥ではフラヴィオとエルセがセックスを楽しんでいる。それも、天井からエルセがぶら下がり、そのエルセを肩に乗せたフラヴィオが口で陰部を舐めるという変態的なものだった。その最中にいきなり扉が開き、トミーが中を覗く(1枚目の写真、矢印)。しかし、あまりの異様さに恐れをなしたトミーはすぐに逃げ出す。追っていけるほど暖かい服装をしていたのはディミトリだけだったので、彼が1人でトミーを追いかける。トミーは、ディミトリが鬼の衣装を着ているためか、「トミー」と呼びかけても停まらずに逃げ続ける。もう少しで捕まえられそうになった時、ディミトリがトミーの背中を押した形になり、トミーは前のめりに倒れてしまう(2枚目の写真、矢印)。トミーは気を失い、ディミトリが呼びかけても反応がない。ディミトリは、トミーが死んだと思い、脈拍、鼓動などを確かめずに小屋まで逃げ戻る。ここまで話した時点で、一瞬、厨房に戻る。父は、「だが、あの子は生きてる。死んだハズがない」と言うが、ディミトリは、「トミーは死んだ」としか言わない。ドアの外からは、エルセが、「ディミトリの責任じゃない。事故だったの」と声をかける。そこで、父はドアのトックを解除する。3人を前に、父は、「じゃあ、誰かが、あの子を見つけたんだ。気絶してて、それをジプシーが連れてったんだ」と、唯一の可能性を口にする。しかし、エルセは「その後」を話し始める… 2人は、いつでも外に出られるように鬼の衣装を着て小屋で待っていた。かなり長く待った後、ディミトリが戻って来て、小屋の中で吐き、「あんなつもりじゃなかった」とくり返す。そこで、何とかディミトリを説得し、森に戻ったが、トミーを見つけ出すのに1時間かかった〔伏線〕。ようやく見つけたトミーにフラヴィオが駆け寄って生死を確認すると、本当に息絶えていた(3枚目の写真、矢印はトミーの遺体)。エルセは、「警察に知らせなきゃ」と言うが、フラヴィオは、「バンカー〔掩蔽壕、もしくは、石炭庫〕に隠そう。あそこなら、誰にも見つからない」と提案し、結局、その通りにしたというものだった。話し終えたエリセは、「ごめんなさい。みんなが、あなたがやったと思ってた。だけど、言い出すだけの勇気がなかったの」と詫びる。
  

父は、直ちに確認に向かう。パブを出て車に戻ると、中には少年が眠って待っていた。今では、トミーではない誰かだ。置いていくわけにいかないので、そのまま乗せて森に向かう。そして、車を止め、「ここで待ってろ」と命じ(1枚目の写真)、エリカに教えられた場所に向かう。少年は、父の様子が変だったので、こっそり後をつける。「バンカー」は確かに存在した(2枚目の写真、矢印)。父は、木の蓋を取り外して中を覗く。映像では父の顔しか映らない(3枚目の写真)。しかし、誰かは分からないが黄色のブーツを履いた小さな子供の死体があったことは確かだ。それをじっと見つめていた父だったが、近くで何か音がする。振り返って見ると、そこには謎の少年が立っていた。父は、「お前は誰だ?」と問いかけ、立ち上がると、近くに寄って行き(4枚目の写真)、「お前は息子じゃない」と宣告する。それを聞いた少年は、落ちていた石を拾って父に投げつけ、そのまま走り去った〔少年は、自分がトミーでないことは、初めから承知していたハズだ。なぜ黙っていたのだろう? 恐らく、ある時から9歳になるまでずっと路地で暮らし、拾われたことが嬉しかったに違いない。そして、「父」はすごくいい人だった。その父からいきなり拒絶されたので、絶望のあまり石を投げたのであろう〕
   

車に戻った父は、それまで飲むのを我慢してきた酒を 遂に口にする。当然であろう。すべてが崩れ去ったのだから。しかし、浴びるように飲むことはせず、白黒をつけようと署長の家に向かう。何といっても、DNAが一致しているという嘘をついたのは署長なのだから。父は、署長の家に着くと、たまたま外に出ていた署長に近寄って行き、いきなり殴りつける。「俺の息子は殺されてたぞ! 貴様、ホントに知らなかったのか? 穴の中に隠されてた。5年間もだぞ!」。それでも、署長は、「あんたの息子は生きてる」と嘘を重ねるので、より強く殴られて足蹴にされる。父は、「どうやって検査結果をごまかした?!」と怒鳴りつけるように訊く(1枚目の写真)。署長は白状する。やり方は簡単だった。ナポリで見つかった少年の髪の毛を2房、別人のものと言って検査機関に送っただけだった〔5年前のトミーの髪の毛などあるハズはないが、検査機関は機械的に調べただけなので矛盾に気付かなかった。通常なら、両親のDNAと、発見された少年のDNAを比較すべきだが、それが行われていないことに誰も気付かなかった〕。そして、署長がそんな愚行をしたのは、「リンダのため」と白状する〔この動機も、意味不明。結果論からすれば、リンダの病状を悪化させただけだった〕。一方、リンダこと母と、祖父が車で家に戻ると、扉口のところに少年がいた(2枚目の写真、矢印)。バンカーのあった所から、ここまで逃げてきたのだ〔最早、誰も頼れる者がいなくなった場所に、どうして戻ったのだろう?〕。祖父は、車から降りて行くと、家の中に逃げ込んだ少年を捕まえ、暴れるのも構わず抱えたまま運び出すと(3枚目の写真)、家の前にある井戸の中に投げ捨てた(4枚目の写真、矢印)〔さすがに この展開には驚かされた〕
   

少年が井戸に投げ込まれるのを見て驚いたのは観客ばかりではない。母も驚いて車から降り、祖父を「いったい何者?」とでもいうように茫然と見つめる。その時、父の車が到着する。中には血まみれになった署長もいる。父は、署長をリンダの前に引きずり出し、「彼女に話せ!」と命令する。ここからの展開の導入部分が一番不自然。頭の中が混乱したリンダは、5年前のことを思い出し、「私は、彼〔トミー〕を眠らせた。それから、あんた〔夫〕に彼を預けた。彼をどこに連れてったの?」と父に訊く。それを聞いた祖父は、「黙ってろ、リンダ。何も言うんじゃない」と言うが、それに続く5年前の映像は、どこから出てきたものなのだろう? 最初の場面は、気絶していたトミーに意識が戻るところ。ディミトリが「押し倒して殺した」と勘違いして去った後だ。だから、この場面は誰かの記憶ではない。トミーは起き上がると、森の中を歩き出す(1枚目の写真)。次の場面では、トミーはもう家に辿り着いている。「ママ」と言いながら寝室に入って行き、照明を点ける。ベッドで寝ている母の元に寄って行くと、大きな声で「ママ」と呼んで、起こそうとする(2枚目の写真)。しかし睡眠薬を飲んでいる母は意識が朦朧としている。そして、トミーが起こそうとしても、「放っといて」「やめて、疲れてるの」「眠らせて」と無意識に言い、ベッドに入り込んできたトミーを黙らせようとして、抱きしめる。しかし、手を当てた場所がトミーの首だったために、結果的に絞殺してしまう(3枚目の写真、矢印は瀕死状態のトミー)。ここまは、誰も知らない事実だ。この先は、祖父の記憶になる。祖父が家に戻って来て、トミーがいないかどうか捜していて、娘の部屋に行くと、トミーは娘の傍らで寝ていた。しかし、トミーがあまりに静かなので手に触れてみると脈がない(4枚目の写真)。目を覚ました娘が、祖父を見て、「この子の寝顔ってホントに愛らしいわね」と言ったので、祖父が何が起きたか知って愕然とする。「ベッドに連れて行ってもらえる?」。祖父は、トミーの死体を抱いて部屋を出る。
   

そして、車に死体を乗せて森まで運ぶ。雪の舞う森の中を死体を担いで歩きまわるが、どうしたらいいか決めかねている(1枚目の写真)。その時、少し離れた場所で、父が「トミー!」と必死で呼ぶ声と、発炎筒の赤い光が見える。ここで、祖父は一旦死体を雪の上に置き、捜索中の父の所に行って、「そのザマは何だ? 何で、行方不明にした?」などと会話を交し(2枚目の写真)、父が死体を置いた場所に来ないようにしておいてから、元の場所に戻る。すると、死体は跡形もなく消えていた(3枚目の写真)。フラヴィオ、エルセ、ディミトリの3人が死体を「バンカー」に持って行ってしまったからだ。祖父は、この段階で、トミーが悪魔にさらわれた可能性をインプットされる。
  

だから、以上の説明をした後で、「彼は、どこかに消えちまった。悪魔にさらわれたんだ」と言う。父は、「パブの奴らが連れ去ったんだ。自分たちが殺したと思ってな。そして、彼を埋めたんだ」と祖父に言い、妻には、「お前だったのか。何でやった?」と責めるように訊く。「何も覚えてない」。「何でやった?」。「分からない」。父は、先ほど署長から奪った拳銃を取り出し、「お前は、俺の息子を殺した」と、妻を撃とうとする。しかし、どうしても撃てない。その時、どこからともなく、「助けて!」という少年の声が聞こえて来る。父が、井戸を覗くと、中に少年がいる〔幸い、死なずに済んだ〕。投げ込んだのは祖父しかいないので、父は、何という外道な殺人鬼どもだと呆れて2人を睨む(1枚目の写真、矢印は井戸)。そして、自分の車からロープを取り出すと、井戸に投げ込む。「ロープをつかめ!」「引っ張りあげてやる」。無事引き上げられた少年は父に抱きつく。顔は井戸水と涙でぐちゃぐちゃだ(2枚目の写真)。そして、思わず、「パパ!」と叫ぶ。その渾身の呼びかけに、父も感じるものがあり、一層強く抱きしめる(3枚目の写真)。その後、しばらく経ってから、パトカーが家に到着し、母が連行されていく。祖父は愕然としてそれを見送るが、なぜこの悪鬼が、トミーの殺人の事後従犯と、少年の殺人未遂で逮捕されないのか不思議だ。署長は、当然、DNAで嘘をついた責任を取るべきだし、パブの3人は死体遺棄で逮捕されるべきだ。救急車の中で、救急救助用のサーマルブランケットにくるまれた少年と父の間には、暖かい交流が始まっているように見える(4枚目の写真)。
   

事件から1年後。少年を養子にとることに決めた父は、トミーの墓に花を供えると(1枚目の写真)、自分にとって何一つ幸運をもたらしてくれなかった村を出ていく。荷物を満載した車に乗り込んだ父は、助手席に座った少年に微笑みかけ、少年も心からの笑顔を見せる(3枚目の写真)。変な伝承に縛られない自由な都会で、2人はきっと楽しい人生を築いていけるであろう。ラストシーンは4枚目の写真。ドロミテ・アルプスでの映画なのに、その雰囲気の写真が1枚もなかったので追加した。矢印は2人が乗った車。
   

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